聖マタイ、聖マルコ、聖ルカ、聖ヨハネという4人の福音書記者は、はじめは神の玉座を囲む天使(ケルビム)と結びつけられていたが、5世紀以降は「4つの生き物」(テトラモルフ)をそのシンボルとすることが多くなった。おそらくこれは占星術の理論からの影響によるものと思われるが、教会博士聖ヒエロニムス(348-420)は、こうした結びつきの根拠を次のように説明している。

(有翼の)人間の姿がマタイのシンボルとなったのは、その福音書がキリストが人の子として生まれたことから始まっているからである。ライオンがマルコのシンボルになったのは、その福音書が「荒れ野で叫ぶ者の声」−洗礼者ヨハネの説教−とともに始まるからである。ルカの場合は、福音書の冒頭に祭司ザカリアがつとめを行なう場面があるため、犠牲獣である雄牛(雄の子牛)がシンボルとなった。そして鷲(ワシ)がヨハネのシンボルとなったのは、その福音書が、精神を天のいと高きところへの飛翔へと誘う、際立った内容をもつからである」

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しかしこれよりも早く、すでに180年頃に、リヨンの司祭エイレナイオスが、4人の福音書記者を、それぞれの理念上の特徴に従って、「4つの生き物」と結びつけている。ただし彼は、これらの特徴を詳しく描き出すことはせず、ただ福音の4通りのあらわれに触れているのみである。すなわちエイレナイオスは、ライオンは王者の如き行動力をあらわし、雄の子牛は生贄の祭祀を、人は神の子キリストが人間として生まれたことを、鷲(ワシ)は教会を貫く神の息吹(プネウマ)をあらわす、と述べるにとどまっている。

やがて、4人の福音書記者は、旧約聖書の偉大な4人の預言者(イザヤ、エレミア、エゼキエル、ダニエル)や、後の4大教会博士(アウグスティヌス、アンブロシウス、ヒエロニムス、大グレゴリウス)と対比されるようにもなった。

ゲルト・ハインツ=モーア(Gerd Heinz-Mohr 1913-1989)は、『西洋シンボル事典』(1981年版)の中で次のように述べている。

「尊厳、力、洞察、柔軟性などを体現する存在としてどのような生き物を想定するかという問題は、いうまでもなく非常に古い、先史時代以来のテーマである。また4つの枢要徳(賢明、剛毅、節制、正義)を生き物と結びつける考え方もやはり古くから見られた」

4人の福音書記者は、しばしば、古代ローマの外衣(toga トーガ)を身につけた哲学者風の姿で、本や書見台とともに描かれ、中世初期の図像では、しばしば彼らのシンボルである「生き物」を伴っている。また4人の伝える福音が、楽園の4本の川に喩えられていることもある。

「4つの生き物」の中では、「マルコのライオン」がヴェネツィア共和国(1979年まで)やヴェネツィア市の紋章の図案に用いられ、とりわけよく知られるようになった。このライオンは、右の前足で本を開いており、そのページには、次のような銘文が記されている。

Pax tibi Marce evangelista meus 「わが福音書記者マルコよ、汝に平和あれ」

「マルコのライオン」は現在、イタリアの海軍旗や商船旗にもみられる。(ハンス・ビーダーマン著「図説・世界シンボル事典」p.364-365より

参考文献:
マルコ福音書とライオンのシンボル

図説 世界シンボル事典図説 世界シンボル事典 [単行本]
ハンス ビーダーマン
八坂書房
2000-11